僕は転がる



 僕は坂道を転がっている、コロコロコロコロ・・・
ドールさんのパン屋も通り過ぎて、坂道を登るベージュの足高のワンボックスカーも
転がりぬけていく。どこへ行きたいんだろう。
 この先は確か海だったはずだ。路面の線路に沿っていけばいい、簡単な事だ。
ただ僕の転がっているのを見て、多くの人が驚いている。
またはおかしく笑っていたりする。バカにしやがって。
 たまたま通りかかった濃いグリーンの日傘を差している貴婦人が、僕を見て
「ファンタスティック」とか何とか。
 そのままの勢いで白いビルの立ち並ぶ坂道の十字路に出た。
こちらの信号が青になっていたのだが自分が来たとたん急に赤でSTOPがかかった。
でもそんなものが出たって知ったことじゃない。僕はただ転がっているのだ。
 十字路の脇から車がどっと沸いて出てきた。
車にしたら突然転がってる”何か”が急に沸いて出てきてビックリするだろう。
 坂道の勢いも手伝って、十字路の真ん中まで飛び、一気にバウンドして、空を見上げた。
ビルの4階から5階付近から見る空はすがすがしく、電線に止まっている鳥の頭上を軽々通り抜けた。
それからまもなく、重力で僕は地面に着地を余儀なくされた。
2~3回反動で大きなバウンドをすると、海風が頬をなでた。海が近くなったのだ。
 でもこのままの進路だと海の近くの大きなショッピングモールの中をそのまま駆け抜けなければいけない。
僕も車も急には止まれない。でも止まる理由なんてないし、むしろいっその事突っ込む事にしようと思った。
 転がり続けているとショッピングモールの正面が見え、上機嫌のままその中を、バウンドを繰り返しながら
レストランのガラスを突き破り、屋根から突破した。そらがまぶしい。
着地でお花屋さんを粉々にし、何回目かのジャンプでイベント中のマジックショーのトランプでできた
ピラミッドをバラバラにし、ついでに観客の目も奪っていった。
 緑の木の立ち並ぶショッピングモールの噴水のある白亜の休憩広場にもはばかることなく
突き進んでいった。その先には噴水がある。緑の木々を掻き分け、
勢い良く水を噴射している噴水にこれまた勢い良く転がりながら頭から突っ込んだ。
噴水を浴びると、頭から背中に幾らかの衝撃と冷気を感じ、水の圧力の反動で宙に舞う。
広場を通り越し日のあたる砂浜にクレーターができるくらいの勢いで衝突して、やっと止まった。
 その場所で大の字になって大空を見上げるように寝転んだ。
「っはぁ、楽しかったぁ~」
 たった今できた砂浜のクレーターに寝そべった僕は、いつの間にか頭に付いていた
トランプ付きの花の髪飾りを取り外した。
それから空の広さを感じながら大きく深呼吸した。
海は何事もなかったかのようにきらめいていた。