そらからパラソル



 ある日の午後だった。僕は相変わらず小学校をずるやすみしていた。自分の机の上の
ノートには絵ばっかり。友達は居るけどあまり遊ばない。
 いつものような綺麗に晴れ渡った空がある。学校なんて嫌い。僕はそれよりも綺麗な日
の当たる空の下でおもいっきり遊んでいたいんだ。少なくとも僕はね。
 今日は近くの川原へ散歩にでもいこうかな。ママに黙ってこっそり。
 ずるやすみはもうママはあきらめてるみたい。はじめのうちはああだこうだうるさくて
苦労したけど、いまはもう何も言ってこない。これはきっと僕の勝ちだと思っていいはず。
 二階からするすると下り、玄関から扉を音をたてないように閉める。ママにみつかっち
ゃうとまた面倒な事になるからしずかに。
 昼に外に出るのはじつは良くある。昼頃決まって顔を出す三村さん家のポトフ(ネコ)
なんて僕の顔なじみ、目の前を通るといつもにゃあって挨拶してくれる。うれしいね。
 いつもの川原へでた。天気予報では今日は降るって聞いたけれど、空は晴れている。そ
の代わりけっこう風がつよくて、小さい体の僕は突風が吹くと前にすすめなくなってしま
う。
 川原の、日に照らされた綺麗な雑草達を見ているとなんだか僕もその仲間になりたいよ
うな気がした。そのまま雑草になってしまえたらいいのになぁと僕は思った。でもそんな
のになれるはずないよねぇ、そう思って僕は平べったい小石を川に向けて投げた。その小
石は一回も跳ね返らなかった。
 僕がそんないぢわるな川を見ていた時、急な突風が僕の顔をなでた。僕は風を全身にう
けて、おっとっとと倒れそうになったけれど、なんとか持ちこたえた。
 その風の、突然の号令によって、何かが空を舞いはじめた。僕は空を見上げる。
 それは色とりどりのパラソルだった。空一面くるくると回って飛んで降ってきていた。
天気は外れたみたいだ。雨は一滴も降らない。替わりにパラソルがふわりふわり降ってき
た。
 ある川原を歩いている人はその光景に驚き、また別の人は憤慨し、またまた別の人は感
動していた。でもそれを見た僕は自分でも何が起きたか分からないくらい、一目散に家に
向かって走りだした。横断歩道の左右を見ず直進し、自転車を追い抜いて、挨拶をしよう
としたポトフも通り過ぎて、家に戻ってきた。
 「ママー!」
しばらくたってキッチンからママの声。
「なぁに~外行く元気あるなら学校いきなさいよぉ!」
「いくよ~!あしたから絶対学校へ行く~!行きたい!」
「はいはい、かってになさい。」
 僕はしかし、パラソルの事を言わなかった。ママはこんなステキな事を知らないんだ。
これはきっと僕の勝ちだと思っていいはず。
 でもママはちょっと嬉しそうだった。


あとがき。
 この作品は、僕がずっと心の中にしまいこんでいた大切なものの一部です。誰にも取ら
れないようにカギを掛けて雁字搦めにしたので、少なからず文章はギクシャクしていると
思います。あまりにも雁字搦めにしすぎたのでもう開かなくて自分でも正直困っています
が、それでもやっぱり僕はその染み出てくるものをつい書いてしまいました。    
 主人公は登校拒否の小学生と言う設定です。
 でもきちんと形にして書けたのは、なにより2005年3月3日の午前2時から3時に
眠れなくて焼酎を飲んで、寝そべりながら書いていたからにちがいありません。少なくと
も僕はそう信じています。そんな気持ちにならなかったら、登校拒否の少年のような気持
ちにならなかったら僕は一生こんな文章なんてかけ
なかったはずだから。

 僕は2005年3月3日の午前2時から3時に降りてきたステキなパラソルを大事にし
ようと思っています。(^^*)